村上春樹『猫を棄てる 父親について語るとき』
村上春樹の新刊。
いつも、本は、文庫本になってから購入することが多いのだけど、この本は出先で時間を持て余してしまった夫が購入したとのこと。
図書館の休館が続いている時期のことだったので、新しい本に触れるのが久しぶりだった。
本を読むことのありがたさをあらためて噛みしめながら読んだ。
村上春樹 『猫を棄てる 父親について語るとき』
タイトルにもあるように、父親との関係を正面から描いた作品。
村上春樹が家族のことをここまで真正面から書いている作品って、他にないのではないかな。
↑単行本の紙の手触りっていい。
本の中には、”作家 村上春樹"ではなく、父親との関係に戸惑う男の子がいた。
その姿に、ちょっと親近感を覚える私でした。
今までの村上春樹は、冷静で理性的で、どこか仙人のような浮世離れした人のように感じていたから。
村上春樹でも、親に認めらずに悲しむこともあるのか…。
(実際に認めていなかったわけではないと思うけれど、そこには距離があったんだ。)
私なんか、息子が村上春樹だったらとても誇らしく思って近所に自慢してしまうけどな。
よくある話だと思うけれど、親との距離の取り方って難しい。
聞きたいことをなぜか聞けなかったり、勝手に相手の考えを決めつけてしまったり。
どんな親子でも、問題はあるんだなぁとしみじみ思った。
家族関係って、外側からはあまり見えない部分だからこそ悩みが深い気がする。
他人であれば、割り切ってしまうこともできるし、ちょっと頭を冷やして客観的に関係性を見つめられたりするのにな…。
小説に出てくるモチーフや描写に、関係しているのだろうと思われる記述もたくさんあり、興味深く読んだ。
当たり前だけど、春樹少年の心に浮かんでいた色々な物事が作品の基盤となっているんだな、と。
例えば、村上春樹の作品にはよく出てくる戦争描写。
お父さんに直接聞けないことを作品に残しているっていうこともあるのかなぁ。
このエッセイを読んでから、他の作品を読み返してみるというのもおもしろそうだ。
今まで読んだことのある村上春樹の他のエッセイとも毛色の違うエッセイ。
なかなか興味深かった。
↓言えないことって、あるよね。
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